【石渡均「クラシック日本映画選―1「飢餓海峡」】
  カメラマンの筆者が、映像作家の視点で、自らの世代と重なる1950年代から80年代の現在でも再放送やDVDで観られそうな映画を解説するという。水上勉の小説「飢餓海峡」を内田吐夢監督が映画化したものを。映像的効果を中心に解説し、内田吐夢監督の人生についても触れている。自分も確かBSTVの再放送でこの映画を見た記憶がある。前半部のモノクロ画像に、懐かしいような画面の粗さがあった。昭和のドキュメント映画と見違うような効果を感じて驚いた記憶がある。それが実は、意図的に16ミリフィルムを35ミリに拡大した効果というこの評論論を読んで、なるほどそうか、と納得した。また映画関係者に直接インタビューした記録を挟むなど、いきいきとした評論に読めた。このような研究者の資料になりそうなものは、後世にも役立つだろうと思う。

 

【「あんよがジーズ」柊木菫馬】
 文体に躍動感があり、気を逸らさない。その筆力はすばらしい。四川料理のバイト生活や、親がかりの生活への認識など、現代人の生活の一端を描いていて、新鮮に感じた。「あんよがジーズ」というタイトルに至る話では、趣旨はわからないが、乳幼児の細かな描写など、見事なもので、自分自身の文体喪失へのコンプレックスを感じてしまった。本当に羨ましい。

 

文芸同志会通信