「書評」

 

第5号

本誌は首都圏6箇所の販売寿にて販売されているという。「同人文芸誌」というのもいい。内容も社会性をもったものになっている。
【「食とは、真の健康を求める文化です! 名村静美・談」石渡均・松林彩編】
 この企画はジャーナリズムとして、5月日の「暮らしノートITO」サイトで取り上げさせていただいた。

 

【「薄紅色の、」石渡均】
 ある独身女性の男性との出会いと、彼との付き合いを断念する事情と心理、それだけを描いて、説得力をもってその心理を描出している。小説内の時間は1時間。短いが、母親の離婚や別離の時の情念を文学性をもって描き、読み応えのあるの良い小説に思えた。

 

【「東京大空襲被災記(2)」島田昌寛】
 これはこれで戦争風化防止に役立つが、こうした悲劇を起こしたことに対する因果関係の国際的な視野での位置付けも必要だなあ、と思った。もちろん国際的な因果応報論を視野にいれても、事情がどうであろうとも、原爆投下や東京空襲が国際戦争犯罪であることを主張することは可能なはず。

 

【「シャーウッド・アンダースンー心の奥にうごめくものー『ワインズバーグ・オハイオ』」田村淳裕】
 グロテスクになったと感じる人間を描いた小説の評論。作家が、無意識の予感のなかに社会が産業化する不安を感じた変化を読み取ったのかと、なるほどと納得した。断片的な散文という形式の短篇集についてであるが、あとに同誌に掲載されているポーの評論につながるところがあるような気がした。

 

【「ポーの美について(ノート)(『ランダーの別荘』、晩年の求愛行為、ワーズワースの詩と自然観、等)」柏山隆基】
 グロテスク論を読んだのだが、こちらはポーと作者の美意識に関する論が、楽しそうに述べられている。美意識というのは複雑である。晩年のポーの女性関係にも話が及ぶが、気持ちよく読める霊性に関するディレッタンティズムとして読んだ。

 

【「アイの家」柊木菫馬】
 気持ちいいことを、思う存分気持ちよく書いた小説。愛に満ちた世界は気持ちいいということか。ちょっと長い小説であった。

 

【「映画監督のペルソナ川島雄三論?」石渡均】
 2008年に執筆されたものだそうだが、JR浜松町駅の小便小僧の由来などがあって、なんとなく読まされてしまう。形式でいうと川島監督をめぐる心と地理的な旅の物語で、そのためか現在の時代との対照が楽しめる。今回は後半に味わいがある。

「小説書く人=読む人ネット」 2015年5月19日

 

5号、短編の石渡均薄紅色の、」は鬱屈した日常を生きるOLが街で知り合った男に束の間の夢を託す話で味わいがある。短編の妙味。随筆の島田昌寛東京大空襲被災記(2)」も前述のような意義がある作品。

「全作家文芸時評」